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江沢洋先生の講演会「ボーアの原子模型:革命からの百年」
学習院の江沢洋先生の講演会「ボーアの原子模型:革命からの百年」を聴きに行ってきた。
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内容は、ボーアがいかにして水素原子の模型、いわゆるボーア模型に行き着いたのかと、それが当時の物理学者達の間でどのように批判され、最終的には受け入れられて信頼を勝ち取って行ったのか、そしてその後の量子力学の発展に結びついて行ったのかの物語だった。

江沢先生の教科書はいくつも読んできたし、授業でも使ってきたのだけど、講演を聴くのは初めてだった。
教科書を読んできた時にも感じていたのだけど、今回の講演を聴いてさらに確信に至ったのは、江沢先生の語り口は、当時の物理学者達の考えを血の通ったストーリーとして聴かせてくれるところに凄さがあるということ。
僕らはその物語を通して、当時の物理学者と一緒に悩んだり、感動したりする事が出来るから、より心に残って理解出来るのだと思った。もちろん物理の本質を一段高いところから見渡して、物理の専門的な意味で大事な部分を明快に示してくれるのも素晴らしかった。
当時の物理学者の考え方を振り返りながらも、一方では現代の視点に立って、なぜこの現象・題材(例えば水素原子)からこの物理法則が確立されて来たのかを紐解くのは非常に聞いていてワクワクする。そこから出てきたのは「自然は教育的」というフレーズ。まさに名言だと思う。
江沢先生の教科書の文章を読んでいて感じた引き込まれるような魅力を、生で感じる事が出来たのが本当に嬉しかった。

思えば僕はいつも実験の授業で、江沢先生の力学の本から借りてきた説明を学生達にしゃべったりしているし、秋頃にうちのボスの代講で1年生に電磁気学入門の講義をした時には、江沢先生の相対論の本から借りてきた「光(電磁波)の研究の歴史」をしゃべったりしたのだけど、江沢先生本人の話を生で聞くと、ひと味もふた味も違うというか、本以上に伝わってくる魅力があった。
いつか自分も学生を引き込めるようなトークが出来るようになりたい、そんなふうに目標を持てたことも収穫だった。頑張ろう。


それと、最後の質疑応答の時間には、前から気になっていた「江沢先生の先生に会った話」を江沢先生本人に聞く事が出来た。
リンク先の昔の日記にも書いてあるけど、僕がD1の頃、電車の中で世間話をしたおじいさんが、実は江沢先生が高校生だった時の化学の先生で、当時高校生だった江沢青年がどれだけ優秀だったかを聞かせてもらったのだった。

7年近くたって、江沢先生の講演会で質問出来る機会が来るとは思っても見なかった。
そのおじいさん(江沢先生の先生)によると、高校生の江沢青年は自由課題のレポートで「原子の構造について」というテーマで非常にレベルの高いレポートを書いてきて、それをみた先生が、授業時間を5コマあげて、江沢青年がそのレポートの内容で授業をしたということ。まず江沢先生に「この話は本当ですか?」ということと、「そのときのレポート(授業)はどんな内容だったんですか?」という事を聞いてみた。
答えは、まず僕がおじいさんから聞いた話は本当で、高校生だった江沢青年が、まさに今日の講演会のテーマでもある「原子の構造」についてレポートにまとめたという事でした。内容も今日の講演で話されたような量子化条件を用いた本格的なものだったそうです。講演会を最後まで聞いて、これだけの話が出来る人だから高校生の頃から凄かったろうなぁと想像したり。

で、その話には実は後日談があって、高校生の江沢先生が書いたその「原子の構造について」のレポートは、その化学の先生が後進に読ませていたらしいのだけど、そのレポートを非常に愛読していた後進の方(?)に不幸があり、その時に本人が生前大事にしていた物の一つとして、レポートもお棺の中におさめられたとの事でした。今では存在していない幻のレポート、読んでみたかったな。


2時から始まって、会場は満員御礼、質疑応答まで含めて終わったのが4時半過ぎ。なんだかあっという間の時間だった。

素晴らしい講演をして頂き、質問にも答えていただいた江沢先生、ありがとうございました。
by nt-neutron | 2014-02-01 18:52 | 研究日誌 | Comments(0)
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某私大で助教を4年間勤めたあと、現在はR研でポスドク。専門は磁性・中性子散乱。
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